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学生インタビュー:對中優さん(博士前期課程2年)

メディア表現学が網羅する領域は、芸術、デザイン、哲学、理工学、社会学など多岐にわたります。各自の専門領域の知識を生かしながら他分野への横断的な探究を進めるうえで、学生たちが選ぶ方法はさまざまです。入学前の活動や IAMAS に進学を決意した動機をはじめ、入学後、どのような関心を持ってプロジェクトでの協働に取り組み、学内外での活動をどのように展開し、研究を深めていったのかを本学の学生が語ります。

對中優さん

漂い、見つけること

- IAMAS入学以前の活動と進学の動機について聞かせてください。

入学以前は武蔵野美術大学のデザイン情報学科に通っていました。学部へ通いたての頃は何をしたいのか全く決まっておらず漫然と授業を受けていました。そもそも美大に通い始めたのも親に勧められて受験したためで、表現の世界に入るきっかけはとても受動的なものだったと思います。そんな中、何かの授業課題のために映像装置について調べ物をしているときに、たまたまYouTubeにアップされていた岩井俊雄さんの作品「時間層II」の映像を見ることがありました。
学科で習っていたデザインと比べてそれがどこか自分の中でピンと来たのを覚えています。それからはメディアアートについて自分でたまに調べて、見様見真似で作品を作ったりしていました。作り始めてみるとなかなかうまくいかず、コンセプトなど全然いいものが思いつきませんでした。そのままなんとなくモヤモヤを抱えながら作品を作っている間に学部を卒業してしまうわけですが、就職先も全然探していなかったし、いつまでも作品をうまく作れないことに結構悔しさを覚えていたのもあってIAMASを受験しました。受験期当初は他の大学院もいろいろ受けようと思っていたのですが、IAMASに合格できた途端に「もう他はいいかな」となって、そのまま進学しました。
進路を決める時は大体大した動機もなく、なんだかとてもだらしない学生でした。

- 在学中の研究、生活について教えてください。学外発表についても紹介してください。

今ではキネティックアートやパフォーマンスアートといった形態の現代アート作品の制作を主にしています。IAMASの修士研究では3Dのオンラインゲーム空間に関する独自の体験をもとにパフォーマンス作品を制作していました。オンラインゲームを題材にし始めたのはもちろんゲームが好きだからですが、それ以上に過去の自分が引きこもりだった時の経験によるものでした。実家の自室に引きこもり、延々とオンラインゲームを一人でしていた期間があって、それによって自身の寂しさを紛らわしていました。別にただゲームをしていただけと言えばそれまでの話なのですが、ゲーム内で遠隔に感じる他者の存在から精神が救われたり、リフレッシュされる感覚もあるかもしれないと感じていました。作品は修士研究の過程の中で幾つかのバージョンを作っていて、大きく表現方法も変わっていきました。修士一年のはじめの頃はゲーム画面に映っている棺桶と全く同じ棺桶を展示空間に用意して、その中に永遠と入っているという、結構無茶なパフォーマンスをしていました。これが後に修士作品となる壁越しの存在というアイデアに繋がるのですが、全てオンラインゲームにおけるアバターをモチーフとした制作という面では一貫していました。また、学内での制作は修士研究制作とともに自主制作も結構たくさんやっていて、どちらも外部での作品発表の機会を幾らかもらうことができたのは嬉しい出来事でした。

- IAMASに入学して、自身の意識の変化という点で何か思いつくことがあれば教えてください。

IAMASではとても多くの人から影響を受けて自分の制作スタイルが変わったと思っています。入学してすぐに先輩のパフォーマンス作品のプロトタイプを見る機会がありました。人間の欲望をモチーフとして取り扱っていて、だいぶ尖っている作品でしたが、それをみた時、「こんな自由にやっていいんだ」と衝撃を受けました。学外でもIAMASの卒業生の方々や色んなアーティストさんを見る中で、影響を受け、僕自身の制作スタイルが変わってゆきました。世の中が大きく、世界、社会、個人で構成されているとしたら、これまでは世界について考える制作をしていたのが、突如として世界と私、社会と私みたいなものになったみたいな。どういうことかというと、世界について考えていた時は自然や身の回りのモチーフを現象的にみて物を作っていたわけです。それが私に着目することになると、自身の私的な体験や感情を意識的にその外側と接続するような制作をし始めることになりました。なんかその方が自分に合っている気がして、作品形態としては学部でやっていた映像装置的表現から身体を意識した動的なイメージの表現へと変わりました。例えば、《in a slumber – 肌のタイヤ》という自然に対して人間が抱いている憧れを表現した自主制作のキネティックアート作品があります。学外で発表する機会を何度か頂くことができ、実際この作品が組み上がった時は初めて自分の中で納得できるものが一つできたという感覚がありました。これまでの作品制作に向き合う中で、ずっと呪いのように存在していたうまくいかなさが解消された瞬間でした。物作りが楽しいものになったというか、受動的にやっていたことからライフワークに変わっていった気がしています。自身が実際に表現活動を続けてゆくにあたって、誰かと全く同じようなやり方はできないと思うのですが、IAMASに来てみると、本当に様々なやり方というか、生き方の中で表現をしている人々と巡り会う機会があります。そんな中で、「この人のこのやり方は自分も少し真似できるかも」というようなモデルをいくつか見つけられると思います。表現をするにしても人それぞれ、得意な表現があると思いますが、それは多くのリファレンスを身近に見ながら、手を動かすことで発見できるかもしれません。僕にとっては修士研究の過程以上に、そういった人々との出会いが貴重な経験としてあります。

《in a slumber – 肌のタイヤ》


- 修了後の進路や、今後の計画を教えてください。

今後は制作活動をとにかく続けられる道を模索し続けたいと考えています。卒業後はひとまずIAMASの研究生として在籍する予定ですが、やはり、先のことは考えすぎないタイプなので、以降はどうするか決めていません。現実的なことを考えると、それがいつか身を滅ぼすかもしれませんが、その時はその時。


 
インタビュー収録:2025年2月
聞き手:前田真二郎
※『IAMAS Interviews 05』の学生インタビュー2024に掲載された内容を転載しています。